上司に送ったメールに、半日たっても返事がない。それだけで「何かまずいことを書いたかも」と考えはじめ、夜中まで頭から離れない。困るのは心配そのものより、それが一日中ついて回ることです。
だから、心配をゼロにしなくていい。役に立つのは、地味なやり方です。頭の中の心配を紙に出す。事実と想像に分ける。考える時間を決める。
なお、この記事は医学的な診断や治療の代わりになるものではありません。
「取り越し苦労」はどういう意味?
『精選版 日本国語大辞典』によると、「取越苦労(とりこしくろう)」は将来のことをあれこれ考え、むだな心配をすることです。「とりこしぐろう」とも読み、似た言葉に「取越思案」「杞憂(きゆう)」があります(コトバンク「取り越し苦労」)。
「取り越す」は、先のことを前もって行うという意味です。まだ来ていない苦労を、自分から前借りして背負いこむ。言葉のつくりはそうなっています。
「雨で中止になるかもと心配したけれど、取り越し苦労だった」のように使います。「返事も来ていないのに、断られた後のことを考えるのは取り越し苦労だよ」という言い方もします。
役に立つ心配との分かれ目
心配がすべて悪いわけではありません。心配したおかげで資料を見直し、ミスを防げることもあります。分かれ目は、心配が行動につながっているかどうかです。
役に立つ心配は、起きそうなことや自分で手を打てることを考えます。「明日の会議の資料、数字をもう一度確認しよう」と準備に移り、必要な分だけ考えて終わります。
取り越し苦労は、起きるか分からないことや、自分ではどうにもできないことを考えます。「会議で何か言われたらどうしよう」と、寝る前も仕事中も同じことを考え続ける。こちらに心当たりが多いなら、この先のやり方が使えます。
先回りして心配してしまうのは、なぜ?

取り越し苦労をしやすいのは、気が弱いからではありません。いくつかの事情が重なると、先のことを考えすぎやすくなります。
よく挙がるのは、責任感の強さです。「ちゃんとやりたい」「迷惑をかけたくない」と思う人ほど、起こりうる失敗を前もって全部つぶしておきたくなります。
答えが出ていない時間が苦手、という人もいます。合否の通知を待つ一週間のような宙ぶらりんの時間に、頭の中で答えを先に作ってしまう。その答えは、たいてい悪いほうに寄っています。
過去に似たことで失敗した経験も効いてきます。「また同じことが起きるかも」と考えるのは、心が自分を守ろうとしている面もあります。
相手の表情や返信の速さから気持ちを読もうとする、先読みのくせもそうです。気づかいができる人ほど起こりやすいのが、少し皮肉なところ。取り越し苦労をする人は、裏を返せば慎重で、人の変化にいち早く気づける人でもあります。
そして、疲れと寝不足。昼間なら気にならないことが、夜中の布団の中では大問題に思えたりします。夜に浮かんだ心配は、翌朝もう一度見直すくらいでちょうどいい。
次のうち、どれに覚えがあるかを見てください(診断ではありません)。
- メールやLINEの返信が遅いと、悪い理由を考えてしまう
- 「大丈夫だよ」と言われても、なかなか安心できない
- 心配していたことが起きなくても、すぐ次の心配が出てくる
- 「もしも〜だったら」と考えはじめると止まらない
上の2つに覚えがあるなら人とのやりとりで、下の2つならひとりで考えこむ時間に、くせが出やすいのかもしれません。

頭の中の心配を、紙の上に出す
頭の中の心配は、同じところをぐるぐる回ります。紙かスマホのメモに思いつくまま書き出すと、「10個くらいあると思っていたのに、実は3つだった」となることがよくあります。
事実と想像に分ける
書き出したら、実際に起きていること(事実)と、自分が考えたこと(想像)に分けます。冒頭のメールの例ならこうです。
- 事実:上司にメールを送って、半日返事がない
- 想像:内容に怒っているのかもしれない/評価が下がったかもしれない/明日、呼び出されるかもしれない
並べると、事実は1つだけで、残りはすべて想像だと分かります。想像の横に「ほかの理由は?」と書き足すと、「会議が続いている」「ほかのメールに埋もれている」といった別の可能性も見えてきます。
想像の中に自分で手を打てることがあれば、行動を1つだけ決めます。たとえば「夕方までに返事がなければ、確認を1行送る」。相手の気持ちや他人の決定のように手を打てないことは、「自分にはどうにもできない」と書いて脇に置きます。
答え合わせノートをつける
心配したことが、実際に起きたかどうか。これを記録しておくと、自分の心配の当たり具合が見えてきます。
この発想には、裏づけになる研究があります。アメリカのペンシルベニア州立大学の研究者が、全般不安症(心配が強く続く状態)と診断された29人を調べました。10日間、心配が浮かぶたびに記録してもらい、その後30日間で実際に起きたかを確かめています。すると、心配の予測の91.4%は、実際には起こらなかった そうです(LaFreniere & Newman, 2020, Behavior Therapy)。
29人と人数が少なく、誰にでも同じ割合があてはまるわけではありません。この研究で役に立つのは数字より、記録してあとで答え合わせをする手順のほうです。ノートには「日付・心配したこと・どうなると思ったか・実際どうなったか」を1行ずつ書けば足ります。
10/12 プレゼンで質問に答えられない → 恥をかいて評価が下がる → 実際は質問2つ。1つは後でメールで答えた
10/13 友人のLINEが既読のまま → 怒らせたかもしれない → 翌日「忙しくてごめん」と返事が来た
1〜2週間続けると、自分の記録が手元に残ります。人から「大丈夫だよ」と言われるより、そのほうが納得しやすいという人もいます。
考える時間を決めて、それ以外は手放す

心配する時間を、あらかじめ決めておく方法もあります。イギリスの公的医療機関(NHS)の地域機関である Oxford Health NHS Foundation Trust も、セルフケアのページで紹介しています。名前は「worry time(心配の時間)」です。1日20〜30分ほどの時間を決め、睡眠のじゃまにならない時間帯に回すとよい、という内容です。
- 「毎日18時から20分、台所のテーブルで」と時間と場所を決める
- ほかの時間に心配が浮かんだら、メモに一言書いて後回しにする
- 決めた時間にメモを見ながら考え、打つ手を1つ決める
- 時間が来たら、そこで終わりにする
最初は後回しにするのが難しいかもしれません。でも、考えるのをやめるのではなく、考える時間を移すだけ。そう思うと、案外続けやすくなります。
決めた時間の外でも考えが止まらないときは、頭を休めて体を動かします。散歩に出る、部屋を片づける、お茶をいれて香りをかぐ。「考えないようにしよう」とすると、かえって考えてしまうものです。
誰かに話すのも手です。「どう思う?」と聞くより、事実と想像を分けて伝えます。「事実はこれで、私はこう想像している」と言えば、相手も答えやすくなります。身近な人に話しにくいときは、この記事の最後にある公的な窓口や、悩みの種類ごとの相談先も使えます。
場面ごとの考え方
仕事のミスが気になるなら、確認すれば分かることかどうかを先に見ます。確認できるなら、心配するより先に確認する。できないなら、心配する時間に回す。仕事そのものがつらくて心配が止まらないなら、環境から少し離れることを考えてもいいかもしれません。逃げることも時には必要という考え方 もまとめています。
既読スルーや「嫌われたかも」は、相手に聞かない限り答えが出ません。ほかの理由を3つ書き出して、それでも気になるなら「この前の件、大丈夫だった?」と軽く聞く。それがいちばん早い答え合わせです。
恋愛の相手だと、少しの変化でも大きく感じやすいもの。連絡の回数や返信の速さだけで判断せず、一緒にいるときの安心感も見てください。心のつながりを確かめるヒントは、心が繋がっている男女の特徴 で紹介しています。
誘いを断ったあと「気を悪くしたかも」と考え続けるなら、誘いを断ると罪悪感があるときへ。気持ちの分け方と送る文例があります。
結婚や仕事、お金といった将来の心配は範囲が広く、考えはじめると止まりません。「何について」「いつまでに」を決めると、取り越し苦労は計画に変わります。30代の将来の不安は、30代で人生に焦りを感じたときの向き合い方 でくわしく書きました。
健康の心配だけは別です。体の不調は自分で判断せず、医療機関に相談してください。症状をネットで調べ続けると、心配がふくらむこともあります。
心配が止まらず、つらいときは
国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」には、不安は決して病気ではない、という説明があります。適切な不安があるから、対策をとったり大きな失敗を避けたりできるからです。
一方で、大人がここ半年ほどで次のように感じたら、専門家に相談するよう案内しています。以前の自分より明らかに不安が増えて自信を失っている。不安を避けるために、特定の場所や人・状況を避けることにこだわっている。生活や行動に影響が出ている。動悸や息苦しさがある場合は、まず内科で診てもらうよう書かれています。
厚生労働省の「まもろうよ こころ」には、電話やSNSで相談できる窓口がまとめられています。主な電話窓口は次のとおりです(2026年10月時点)。
- 「#いのちSOS」:0120-061-338(無料)、24時間(毎日)
- よりそいホットライン:0120-279-338(無料)、24時間
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556、受付時間は都道府県によって異なる
LINEやチャットで相談できる窓口も紹介されています。受付時間は変わることがあるので、最新の情報は公式ページで確かめてください。
心配性は、直すものというより、付き合い方を覚えるものです。旅行の荷物を何度も確かめてしまう人は、たぶん誰かの忘れ物にも先に気づいています。
先のことより、いまこの時間に目を向けたい日は、「時の流れに身を任せる」の意味と考え方 もどうぞ。







