自分の資料にやっと手をつけようとした瞬間、横から「すみません、これって」と声がかかる。時計を見ると、今日これで5回目。答えているうちに午前が終わり、自分の仕事に戻れるのは夕方になってから。
指導の疲れは、がんばり方を変えるより、範囲と段取りで減らすほうが近道です。どこまでを自分が見るのかを決めて、教える手間そのものを小さくする。後輩を変えようとしなくても、できることはあります。
後輩の指導に疲れるのは、自分の力不足じゃない
指導は、自分の仕事に上乗せされる形で任されることが多いものです。担当の仕事は減らないまま、教える時間と、言い方を考える気づかいが毎日少しずつ足されます。
朝のうちに頼んでおいた作業の進み具合が気になって、自分の作業中も何度か後輩の画面をのぞいてしまう。手は動いているのに、頭の半分は後輩のほうにある。そんな日が続くと、残業をしていなくても、帰りの電車でぐったりします。
指導のやり方を扱う本や研修は、教える側がどう変わるかの話が中心です。相手の話をよく聞く、後輩のやり方を尊重する。どれも間違いではないけれど、疲れている人にさらに「がんばること」を足す話でもあります。この記事で扱うのはその逆で、疲れている側の負担の減らし方です。
後輩のミスを自分のミスのように夜まで引きずるなら、仕事のミスを引きずってしまうときへ。「よくある質問」に、任せた範囲と自分の範囲の分け方を書いています。
指導の疲れを、中身で分ける
同じ「指導に疲れた」でも、何がいちばん重いのかで、手をつけるところは変わります。いちばん近い行を1つ選んでください。
| 疲れの中身 | よくある場面 | 変えやすいこと |
|---|---|---|
| 覚えてもらえない | 先週教えたことをまた聞かれる | 手順を後輩に書いてもらう |
| 自分の仕事が進まない | 質問で作業が細切れになる | 質問を受ける時間を決める |
| 言い方に気を使う | 遠回しで、直す点が伝わらない | 注意の言い方の型を決める |
| 責任だけ増える | 後輩の間違いで自分が呼ばれる | 見る範囲を上司と決める |
| 評価されない | 指導の時間が成果に数えられない | 時間を書き出し、面談で伝える |
「覚えてもらえない」と「自分の仕事が進まない」は、根っこが同じことがあります。同じ質問が何度も来るから、手が止まる回数も増える。この2つが重なっているなら、下の「教える手間を、小さくする段取り」から始めます。一度に両方に手が届きます。
一方で「責任だけ増える」と「評価されない」は、自分の工夫だけでは動かしにくい行です。どこまでが自分の責任か、指導が仕事として数えられるかは、上司と話して初めて決まります。次の章で扱います。
職場の人間関係に疲れた30代へでは、疲れを「相手」「量」「役割」「空気」に分けています。この記事は、そのうち「役割」の後輩指導を詳しくしたものです。上司との板挟みや苦手な人のことも重なっているなら、そちらの表もあわせて見てください。どこから手をつけるか決めやすくなります。

どこまでを自分が見るかを、上司と決める
指導役は、「○○さんのこと、よろしくね」の一言で始まることがよくあります。何をどこまで教えるのか、後輩のミスを誰が確認するのか。決まらないまま始まると、後輩のことは全部自分の責任のように感じやすくなります。
範囲を決めるのは、手を抜くためではありません。決まっていなかった部分を、上司と分け直すための相談です。
相談の前に、1週間だけ、指導に使った時間をざっくり書き出しておきます。手帳の端に「午前 質問3回 20分」「午後 書類の確認 30分」と書く程度で十分です。数字があると、「なんとなく大変」ではなく、仕事の量の話として聞いてもらいやすくなります。
範囲を決めたいとき。
「○○さんの指導で、1日に1時間ほど使っています。私が見るのは□□の手順までにして、△△の判断は課長に確認していただく形にできますか」
自分の締め切りが重なっている週に。
「今週は自分の締め切りがあるので、○○さんの質問は午後にまとめて受けてもいいですか」
評価の面談の前に。
「指導に使っている時間の分も、面談の振り返りに入れていただけると助かります」
3つめは、いちばん言い出しにくいかもしれません。けれど、指導が仕事として数えられていないと感じたまま続けると、疲れに「報われない」という気持ちが重なります。上司のほうも、部下が指導にどれくらい時間を使っているかを知らないだけ、ということがあります。書き出した時間が、そのまま話の材料になります。
教える手間を、小さくする段取り

教え方を上手にするより、教える回数と、手が止まる回数を減らす。そのための段取りです。全部を一度に始めなくてかまいません。
質問の時間と目安を決める
質問が来るたびに手を止めていると、1回は5分でも、自分の作業に頭を戻すまでにまた時間がかかります。そこで、質問を受ける時間を決めて、後輩に伝えておきます。
「11時と16時に、まとめて聞く時間をとるね。それまでに聞きたいことをメモしておいて」
急ぎのものだけはその場で聞いていい、という線も一緒に決めます。「お客さまを待たせている」「締め切りが今日」など、後輩が迷わず判断できる目安にします。線がないと、後輩は全部を「急ぎかもしれない」と考えて、結局その場で聞きに来ます。
聞きに来るまでの目安も決めておきます。「分からなかったらすぐ聞いて」だと質問が増え、「自分で考えてみて」だと後輩が何時間も抱え込むことがあります。その間をとって、たとえば「15分調べて分からなければ聞く」。15分は一つの例で、仕事の中身によって10分でも30分でもかまいません。後輩の意見も聞いて決めると、二人の約束として守られやすくなります。
教えた手順は、後輩に書いてもらう
教えたあとに、手順を後輩自身にメモにしてもらい、自分は抜けがないかを確認するだけにします。自分でマニュアルを作るより手間がかからず、後輩の言葉で書かれているので本人も見返しやすい。
次に同じ質問が来たら、答える前に「メモのどこまで分かった?」と聞きます。責めるための一言ではなく、メモを一緒に開くための一言です。足りないところだけ書き足してもらう。何度か繰り返すうちに、メモは後輩の手順書になります。
段取りを決めたら、上司にも一言伝えておきます。「質問は時間を決めて受けることにしました」と共有しておけば安心です。後輩が別の人に「先輩が忙しそうで聞けない」と相談しても、話が食い違わずに済みます。
言い方に気を使いすぎるとき
夕方、後輩の資料に間違いを見つける。「ちょっと気になったんだけど、もしかしたら私の説明が悪かったかもしれなくて」と前置きを重ねる。そのうちに、何を直してほしいのかがぼやけていく。言い終わったあとも、きつく聞こえなかったかを何度も思い返してしまう。
注意は「事実」と「次にしてほしいこと」の2文にすると、言い方に迷う時間が減ります。気持ちや性格には触れず、起きたことと次の行動だけを言う型です。
「この資料、数字が先月のままになっていました。次からは、出す前にこの欄だけ確認してください」
ほめるときも、事実で伝えます。「すごいね」より、何がよかったのかが相手に残ります。
「この順番、分かりやすかったです」
後輩が落ち込んだように見えても、その反応は後輩のものです。 言った中身が事実と次のことだけなら、自分の言い方を責めなくていい。注意したあと、何日も自分を責める気持ちが抜けないなら、自分を責めてしまうときにへ。
後輩という人そのものが苦手で、顔を合わせるだけで気が重いこともあります。それなら職場の苦手な人と毎日顔を合わせるのがしんどいときのほうが近い内容です。
ひとりで判断しなくていいとき
注意したら強い言葉で言い返される。話しかけても返事がない。指導のことで、周りから繰り返し責められる。ここまで来ると、指導の工夫でどうにかする範囲を超えているかもしれません。ハラスメントにあたるかどうかを、自分で決める必要はありません。迷っている段階でも、相談してかまいません。
社内と社外の相談先の選び方は、職場の人間関係に疲れた30代への「ひとりで判断しなくていいとき」にまとめています。相談の前に残しておくメモの書き方も、そこにあります。
夜に眠れない日や朝に体が動かない日が続いているなら、指導の工夫より休むことを先にしてください。気になる体の不調があるときは、医療機関にも相談を。
よくある質問
明日の朝、質問をまとめて受ける時間を1つだけ決めて、後輩に伝える。上司への相談は、その時間割が回るかを数日見てからでも間に合います。







