「時の流れに身をまかせる(身を任せる)」は、時間とともに変わっていく物事に逆らわず、なりゆきにゆだねる という意味で使われる言葉です。「無理に急がず、時間が解決するのを待つ」「自然な流れに任せる」とも言いかえられます。「時に身を任せる」「時の流れに身を委ねる」も、ほぼ同じ意味で使われます。
ただ、何もしないで放っておくこととは少し違います。自分ではどうにもできないことは時間に任せ、自分で決められることは自分で動く。この区別がつくと、この言葉はあきらめではなく、気持ちに余裕をつくる考え方になります。
失恋した友人に「今は時の流れに身を任せたら」と声をかけたものの、少し無責任な気もした。そんな引っかかりが残っている人にも、この区別は役に立ちます。
辞書で「身を任せる」を引くと
「時の流れに身を任せる」という形で辞書に載っているわけではありません。「時の流れ」と「身を任せる」を組み合わせた言い方です。
「身を任せる」は、『精選版 日本国語大辞典』では「身を投げ出して、なされるがままにする。相手の思うままになる」、『デジタル大辞泉』では「相手の思うようにさせる」と説明されています(コトバンク「身を任せる」)。ここでの「相手」が時の流れ。時間がたつことで起きる変化に、逆らわずに自分を預ける、という意味になります。
似た言い方の「委ねる(ゆだねる)」は、『デジタル大辞泉』で「処置などを人にまかせる。また、すべてをまかせる」とされています。「時の流れに身を委ねる」も、ほぼ同じ意味で使われます。「身をまかせる」と「身を任せる」は表記の違いで、どちらも使われます。
この言い方が広く知られているのは、テレサ・テンさんの曲の影響もありそうです。「時の流れに身をまかせ」(1986年2月発売、作詞: 荒木とよひさ、作曲: 三木たかし)です。歌詞の解釈は人によって違うので、ここでは言葉としての意味だけを扱います。
使い方の例です。
- 「転職するかどうか、今は焦って決めずに、しばらく時の流れに身を任せてみる」
- 「別れたばかりでつらいけれど、時の流れに身を任せれば、いつか思い出になると思う」
「時に身を任せる」「流れに身を委ねる」との違い
検索では「時に身を任せる」「流れに身を任せる」「流れに身を委ねる」もよく見かけます。意味はかなり重なりますが、何に任せるかが少し違います。
| 言い方 | 任せる先 | よく使う場面 |
|---|---|---|
| 時の流れに身を任せる | 時間がたつこと | 失恋・別れなど時間を待つとき |
| 時に身を任せる | 時間・時期 | 上を短くした言い方 |
| 流れに身を任せる | その場のなりゆき | 異動や恋愛の進み方に合わせるとき |
| 時の流れに身を委ねる | 上と同じ | 文章や、あらたまった場 |
「任せる」と「委ねる」は、どちらも人や物事にまかせるという意味で使われます。辞書では「委ねる」に「すべてをまかせる」という説明もあります。そのため「身を委ねる」は、任せる度合いが少し深く、静かな響きになります。日常の会話なら「任せる」、手紙や文章なら「委ねる」くらいの使い分けで十分です。
言い換えと似た言葉
「成り行きに任せる」は、自分の意志を出さない感じが強めです。『精選版 日本国語大辞典』も、「成り行き」を「自らの意志を強く持たずに、物事の動きや結果に身をゆだねること」としています。「自然体でいる」は『デジタル大辞泉』で「気負いのない、自然な態度」。こちらは力を抜いた、前向きな印象です。
ことわざなら「待てば海路の日和あり」。『ことわざを知る辞典』では「じっくりと好機を待てというたとえ」とされ、待てばいい時期が来るという希望がこもっています。会話なら「なるようになる」が軽くて使いやすい。英語では「go with the flow」が近く、周りに合わせて落ち着いて受け入れる、というニュアンスです。
反対に近いのは、「流れに逆らう」「自分から動く」「先手を打つ」あたりです。
「あきらめ」や「投げやり」とは、どこが違う?
「流れに身を任せる」と聞いて、「何もしない」「あきらめる」を思い浮かべる人もいます。違いは、自分で決められることまで手放しているかどうか です。
たとえば4月の異動の内示を待っている時期。結果は自分では決められませんが、今の仕事をていねいに続けることは自分で決められます。前者を任せ、後者を続けるのが「流れに身を任せる」状態です。投げやりになっているときは、後者まで「どうでもいい」と手放してしまう。
だからこの言葉は、良い意味にも悪い意味にも使われます。肩の力を抜いて自然体でいる、という前向きな使い方があります。一方で、自分で決めずに人任せにしている、という否定的な使い方もあります。自分で選んだ覚えがないまま、ただ流されているだけな気がするときは、「惰性で生きる」とは のほうが近いかもしれません。

任せていいとき、自分で動いたほうがいいとき

相手の気持ちや会社の決定、天気のように、自分では決められないことは任せていい。急いで決める必要がなく、待っても失うものが少ないなら、なおさらです。次のどれかに当てはまるときは、自分で動いたほうがいい場面です。
- 自分の行動で変えられる待たずに、自分で決めて動く
- 期限がある申し込み・契約・手続きは、期限までに動く
- 待つほど道が減る損が大きくなる前に、小さく一歩動く
- つらさが続いている眠れない・食べられないなら、早めに相談する
- 安全がおびやかされている暴力や強い言葉を受けているなら、すぐ相談する
申し込みの締め切りが来週に迫っている資格試験のように、期限がはっきりしているものは「時間が解決する」側には入りません。ここを取り違えると、任せたつもりが先送りになります。
心や体のつらさが続くときや安全が心配なときは、「時間が解決する」と待たないでください。 身近な人や医療機関・相談窓口に、早めに相談を。
恋愛で「流れに身を任せる」と言うとき
恋愛でこの言葉を使うときの意味は、主に2つあります。ひとつは、関係の進み方を急がないこと。「付き合うかどうか、今は流れに身を任せたい」のように、無理に白黒をつけない態度です。もうひとつは、失恋や別れを時間に任せること。「つらいけれど、時の流れに身を任せて忘れていく」のように、気持ちが落ち着くのを待つ使い方です。
「身を任せる」の言い方には注意
「身を任せる」には、辞書に「女性がからだを許す」という意味も載っています(『精選版 日本国語大辞典』『デジタル大辞泉』)。友人とのカフェで「彼に身を任せた」と言うと、体の関係の話だと受け取られることがあります。関係の進み方を言いたいときは、「自然な流れに任せたい」「急がずにいきたい」と言えば誤解されにくくなります。
知り合ったばかりのとき、相手のペースを大事にしたいとき、別れた直後で気持ちの整理がつかないとき。一緒にいて安心できて、今の関係に不満がないとき。こういう時期は、流れに任せてかまいません。
反対に、自分の気持ちははっきりしているのに、何か月も同じ状態が続いている。結婚や出産について考えている時期がある。相手の気持ちが分からず、毎日そのことばかり考えてしまう。大事にされていないと感じることが多い。こうしたときは、自分から動いたほうが楽になることが多いはずです。何か月も同じところで止まっているなら、それはもう先送りに近い状態です。
相手の気持ちは自分では決められないので、流れに任せていい部分です。一方で、気持ちを伝えるかどうか、この関係をどうしたいかは自分で決められます。分けて考えると、待つことが苦しくなりにくくなります。
相手との心のつながりを確かめるヒントは、心が繋がっている男女の特徴 でまとめています。
任せたいのに焦ってしまうとき

頭では「流れに任せたほうがいい」と分かっていても、通知が鳴るたびにスマホを見てしまう。そういうときは、気持ちを抑えこむより手を動かすほうが早いです。
気になっていることを紙に書き、自分で決められることと決められないことに分けます。決められないほうには「今は時間に任せる」と書いて脇に置く。決められることがあれば、行動を1つだけ決めます。
ただ待つのがつらいなら、「3か月たっても変わらなければ、もう一度考える」と期限を決めておく。それだけで、待つ時間がなりゆき任せから、自分で選んだ時間に変わります。
先のことばかり考えていると、焦りはふくらみやすくなります。今日の仕事、食事、睡眠。目の前のことに意識を戻すのも手です。まだ起きていないことを考えすぎてしまう人は、取り越し苦労をやめたい人へ で心配と付き合う方法をまとめています。
30代前後は、結婚・仕事・住む場所など、まわりの変化が目に入りやすい時期です。人と比べて焦っているときは、大事にしたいことを3つほど書き出す。それがはっきりすれば、ほかは流れに任せやすくなります。30代の焦りとの向き合い方は、30代で人生に焦る女性へ でくわしく紹介しています。
「流れに身を任せるとうまくいく」は本当?
任せれば必ずうまくいく、という保証はありません。
ただ、自分では決められないことに力を使い続けると、疲れて目の前のことに集中しにくくなることがあります。決められないことを手放し、決められることに力を回す。その結果として物事が進みやすくなる、と受けとるのが現実的です。
「待てば海路の日和あり」のように、待つことで時期がめぐってくることもあります。とはいえ、日和が来たときに船を出す準備ができていなければ、待った意味が薄れてしまう。準備だけは続けておきたいところです。
「うまくいった」と言われやすい場面、任せないほうがいい場面
「流れに任せたらうまくいった」という話が出やすいのは、相手や周りの事情が動くのを待つ場面です。恋愛なら、知り合って間もない相手との距離の縮め方。連絡の頻度や会う間隔を急いで決めず、相手のペースに合わせているうちに、自然と会う回数が増えていくことがあります。
仕事なら、異動の希望を出したあとや、転職の選考結果を待っている時期。結果は自分では決められないので、待つ間は今の仕事を続けるのがいちばん手堅い過ごし方です。
任せないほうがいいのは、自分が動かないと何も変わらない場面です。付き合って数年たち、結婚の話を切り出したいのに言えずにいる。担当替えや昇進の希望を、上司にまだ一度も伝えていない。相手が察して動くのを待っていても、時間だけが過ぎやすいところです。希望を伝えるのは、自分で決められる側の行動です。
迷ったら、「待っている相手は、私が何を望んでいるか知っているか」を考えてみてください。知っているなら、あとは相手の番なので流れに任せられます。まだ伝えていないなら、先に一度伝えてから任せる。この順番にすると、待つ時間が先送りになりにくくなります。
いま待っていることのうち、自分で決められる部分はどれくらいありますか。そこだけ先に片づけてしまえば、残りは安心して時間に預けられます。







