年末が近づいたころ、母から「お正月はいつ帰ってくるの」とLINEが届く。返事を打とうとして、指が止まる。会いたくないわけではない。それなのに、帰ったあとの数日を思い浮かべると、気が重くなる。
実家に帰りたくないと思うのは、親が嫌いだからとは限りません。何に疲れるのかが分かれば、「帰る」か「帰らない」かの二択のほかに、日数や泊まる場所を変えて帰る形も選べます。理由の分け方と、今回は帰らないと決めたときに送る一言、帰るなら疲れないための段取りをまとめました。
帰りたくないと思うのは、親不孝?
一人暮らしを始めると、起きる時間、食事の量、夜の過ごし方まで、少しずつ自分のペースができていきます。実家には実家のペースがあり、離れて暮らす年数が長くなるほど、その差は広がります。朝7時に起こされる。テレビが一日中ついている。台所に立つと、手順を横から言われる。一つひとつは小さなことでも、2日、3日と続くと疲れがたまります。
帰りたくない気持ちは、親への情が薄れたしるしとは限りません。暮らし方の違う場所に急に戻ると、体も気持ちもついていかない。それだけのこともあります。
「帰りたいけど、帰りたくない」。この両方を同時に抱えていても、おかしくありません。元気な顔を見せて安心させたい気持ちと、帰ったあとの疲れを思う気持ちは、どちらも本当です。どちらかを消そうとしなくていい。両方を抱えたまま、今回はどうするかを決めれば足ります。
罪悪感があるのは、親のことを気にかけているからでもあります。そのうえで、自分がすり減る帰り方を毎回続けなくても大丈夫です。
帰りたくない理由を5つに分ける

「帰りたくない」の中身によって、変えられることは違います。いまの気持ちにいちばん近い行を探します。
| 理由 | よくある場面 | 変えられること | この記事の外で扱うこと |
|---|---|---|---|
| 気疲れ・生活のリズムが合わない | 朝早く起こされる。テレビの音がずっと聞こえる。話しかけられ続けて、一人になる時間がない | 泊まる日数を短くする。一人で外に出る時間を予定に入れる | なし(この記事で扱う) |
| 結婚・仕事・生き方を言われる | 「いい人いないの」「いつまで一人でいるの」「その仕事で大丈夫なの」と聞かれる | 返し方の一言を用意しておく(後半の段取りの章) | 結婚したいかどうかの迷いそのもの |
| 家の環境が落ち着かない | 物が多くて座る場所がない。冬の家が寒い。タバコの臭いが服に残る | 泊まる場所を実家以外にする。過ごすのを日中だけにする | 実家の片付けを親にどう勧めるか |
| お金・距離・休みの短さ | 交通費がかかる。移動だけで連休の半分が終わる | 時期をずらす。日帰りや1泊にする | 交通費の節約や比較 |
| 親との関係そのものがつらい | 話すたびに否定される。大きな声を出される。会ったあと何日も落ち込む | 帰り方の工夫より先に、自分を守る距離を考える | 相談先は最後の章で紹介 |
いくつか重なることもあります。たとえば「移動で休みがつぶれるうえに、着いたら結婚の話をされる」という重なり方。その場合は、変えやすい理由から手をつけると楽になります。泊まる日数を1日減らすだけで、結婚の話題が出る回数も減ります。
結婚を急かされることより、自分が結婚したいのかどうか分からないことのほうが苦しい。そういうときは、結婚したいかわからない女性へで迷いの中身を分けています。きょうだいや同級生と比べられて、帰るたびに落ち込むなら、人と比べてしまう30代女性へも手がかりになります。
帰る・形を変えて帰る・今回は帰らない。どれにする?
帰省の選び方は、帰るか帰らないかだけではありません。帰り方を変えるという、あいだの選び方があります。どれにするか迷ったら、次の問いに一つずつ答えてみると、気持ちの置きどころが見えてきます。
- 前に帰ったあと、元の調子に戻るまで何日かかった?
- 今回、どうしても会っておきたい人はいる?
- 帰らないとしたら、代わりに顔を出せる時期はある?
- 気が重いのは「何日もいること」か、「会うこと」そのものか
戻るまで1日くらいで、気が重いのが「何日もいること」なら、帰り方を変えるだけで楽になる見込みがあります。たとえば、こんな変え方です。
- 3泊していたのを1泊にする
- 泊まらずに日帰りにする
- 実家の近くのホテルに泊まり、日中だけ実家で過ごす
- 混み合う年末年始やお盆を外して、別の連休に帰る
- きょうだいや親戚が集まる日に合わせて、親と二人きりの時間を減らす
一方で、帰ったあと何日も落ち込む、会うこと自体を考えると眠れなくなる、というなら、今回は帰らないという選び方も十分にあります。帰らないと決めても、それはずっと続く決定ではありません。今年は帰らない、来年はそのときの自分で決める。それで構いません。
帰らない年末年始は、一人で過ごす夜にふと寂しくなることもあります。そんなときの過ごし方は一人暮らしの夜が寂しいときににまとめています。「逃げているだけでは」と自分を責めてしまうなら、ポジティブな逃げとはで、逃げていい場面の見分け方を書いています。帰省の何週間も前から、親に言われそうなことを考えて頭が休まらないときは、取り越し苦労をやめたい人へも合わせて読めます。
「今回は帰らない」を伝える文例
帰らないと決めたら、伝えるのは早いほうが角が立ちません。親が布団を干したり、食材を多めに買ったりする前に知らせれば、がっかりさせる度合いも小さくなります。
伝え方の決まりは、短く、代わりの予定を添えること。そして、理由は、本当のことの中から言える部分だけを選びます。 全部を説明しなくてもいい。ただ、作り話はしない、という線だけは守ります。
年末年始に家で休みたいときは、こう送れます。
「今年の年末は、家でゆっくり休むことにしたよ。2月の連休に顔を出すね」
本当に仕事や予定があるときだけ、それを理由にします。
「お盆は仕事の区切りがつかなくて、今回は帰れそうにないんだ。落ち着いたら連絡するね」
混む時期を避けて、別の時期に帰るつもりなら、そのまま書けば十分です。
「年末は移動が大変だから、今回は時期をずらすね。3月ごろに1泊で帰ろうと思ってる」
文中の月は例です。代わりの予定は、本当に行けそうな時期を書きます。守れない約束を添えると、次の連絡がまた重くなるからです。
電話で伝えるなら、最初に結論を言います。
「お正月のことなんだけど、今年は帰らないことにしたんだ。元気にしてるから、それは心配しないでね」
「どうして?」と聞かれたら、長く説明せずに、自分の状態を一言で返します。疲れているのが本当なら、それは嘘ではありません。
「最近ちょっと疲れがたまってて、休みは家で休みたいんだ。また顔出すね」
「体調を崩した」と言う、仮病を使う、といった嘘の言い訳は勧めません。心配した親から何度も連絡が来たり、次に会ったときに話を合わせ続けたりすることになり、かえって疲れるからです。
返事がそっけなかったり、寂しそうだったりしても、すぐに取り消さなくていい。親が残念がるのは、会いたい気持ちがあるからです。それは受け止めつつ、自分の決めたことはそのままにしておけます。
帰るなら、疲れないための段取り
帰ると決めたら、行く前に決めておくことがあります。帰省で疲れるのは、着いてから「いつまでいるの」「明日はどうするの」と、その場で決めることが続くからでもあります。
日数と帰りの日は、出かける前に親に伝えておきます。「2日の昼の電車で帰るね」と先に言っておけば、引き止められても「もう切符を取ってあるから」と返せます。帰りの便は、行きと一緒に取っておくと安心です。
一日に一回、一人で外に出る用事を作ります。近所を散歩する、ドラッグストアに買い物に行く、駅前のカフェで30分だけ本を読む。家の中で気を張り続けないための、小さな逃げ場です。
寝る時間、お風呂の順番、朝起こされたくないこと。気になることは、全部ではなく一つだけ、先にお願いしておきます。「朝はゆっくり寝かせてもらえると助かる」くらいの言い方なら、頼みごととして受け取ってもらいやすくなります。
夕飯の席で、結婚や仕事の話が出たときのために、返す一言も決めておきます。短く受けて、話題を変える形です。
「心配してくれてありがとう。決めたら、自分から言うね」
「うん、ちゃんと考えてるよ。それより、庭の柿は今年もなった?」
「その話は、また今度ゆっくりね。今日はおいしいものを食べたいな」
その場で分かってもらうことを、目標にしなくていい。 言い返して議論になると、残りの日数がずっと気まずくなります。受け流して、自分の考えは自分の中にしまっておく。それで十分です。
帰りの電車の中で、どっと疲れが出ることもあります。帰った日の夜には予定を入れず、自分の部屋で何もしない時間を取っておきます。
親との関係そのものがつらいときは
会うたびに否定されて、何日も落ち込む。大きな声や、物に当たる音がこわい。帰省の日が近づくだけで眠れなくなる。そういう状態なら、帰り方の工夫より先に、自分を守る距離を考えていい場面です。その関係にどんな名前がつくかを決める必要はありません。つらいと感じていることが、何より確かな手がかりです。
一人で抱えていると、考えが同じところを回りやすくなります。誰かに話して整理したいときは、悩みの種類ごとの相談先から、合いそうな窓口を選べます。
親から暴言や暴力を受けている、身の危険を感じるという場合は、公的な窓口に相談するのが先です。いま身の危険があるときは、迷わず110番に。 話を聞いてほしいときは、よりそいホットライン(0120-279-338、福島県からは 0120-279-226)が24時間つながります。家族との関係の悩みも受け付けている窓口です。
親の介護や、実家のお金のことが絡む悩みは、この記事では扱っていません。住んでいる地域の役所などの公的な窓口で、状況に合った相談先を確かめられます。
よくある質問
次の連休の予定が決まる前に、親に送る一言を一つだけ、スマホの下書きに入れておく。LINEが届いたときに、指が止まる時間は少し短くなります。

